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169-衆-財務金融委員会-18号 平成20年05月08日

○原田委員長 これより参考人に対する質疑を行います。
 質疑の申し出がございますので、順次これを許します。とかしきなおみ君。

○とかしき委員 自由民主党のとかしきなおみでございます。
 本日は、参考人の先生方には、法律案の質疑のためにお時間を割いていただきまして、本当にありがとうございました。
 それでは、質問に移らせていただきたいと思います。
 今回の法律案では、日本の金融市場の魅力を高めていくというのが一番の改正の志向であります。金融センターの国際競争が激しさを増す中、この法律案の改正によって、劣勢にある東京の地位向上にいかにつなげていくか、ここが大きなポイントになるかと思います。
 そこで、黒沼悦郎参考人にお伺いしたいと思います。
 この法律案の改正で、透明性、多様性、競争力など、どの点がどのように有効に機能して、日本の市場の魅力を高めていくということが期待できるのか、その考えをお聞かせいただきたいと思います。さらに、運用面でどのような点に特に配慮すればこの法律案が最も有効に機能するのか、あわせてお伺いしたいと思います。よろしくお願いいたします。

○黒沼参考人 どのようにしたら透明性、多様性を高めることができるかという点ですが、プロ向け市場の枠組み整備ということで、法律上の一定のディスクロージャーが行われる予定であります。それに加えて、取引所の自主的な取り組みによる、自主規制によるディスクロージャーが行われる。その内容をしっかりと整備していただくことで、市場の透明性というのは高まると思われます。
 それから、そこに参加する投資家ですけれども、プロ投資家を念頭に置いておりますが、先ほども各参考人の方から御説明がありましたように、その背後には一般投資家が投資に参加するということが予定されておりまして、その一般投資家のニーズを酌み取った投資が行われるということで、単なるプロだけのための市場ではなく、一般投資家にもその利益が享受されるということであろうと思います。
 改正点は多面的なもの、多岐にわたるものですから、すべての点について御指摘の側面を説明するというのは時間がかかってしまいますので、そのほか運用面で配慮しておくべきことということについて一言申し上げますと、今回見直しが図られる課徴金制度は、このプロ向け市場の仕組みにも取り入れられています。そのほか、従来から金融商品取引法では、違反に対する制裁として罰則がありますし、それから損失をこうむった投資家を保護するための制度として特別の民事責任制度があります。
 そういった制度が、行政が運用する制度もありますし、検察官がイニシアチブをとって運用する刑事罰の制度、それから投資家が、私的なエンフォースメントといいますけれども、みずからの利益を実現するために裁判制度を利用して損害賠償を求めていくといった、こういった救済の仕組みが円滑に活用される。これは取り締まりのレベルを上げればいいという問題ではありませんで、そういうことがいざとなったら実効的に動くということが、投資者の信頼を高めて、制度の目的を発揮するために重要なことではないかというふうに考えております。
 以上です。

○とかしき委員 ありがとうございました。市場の信頼性をいかに獲得していくかということが大切だということがよくわかりました。
 それでは、次は斉藤惇参考人にお伺いしたいと思います。
 海外からの投資や金融機関を呼び込まなければ、市場や金融機関の活性化はあり得ないわけであります。MアンドAをしやすくする環境などを整備し、チャンスがあれば日本に行こう、こういう構図をいかに築いていくか、ここが重要かと思いますけれども、これは具体的にどういうふうにしていったらいいのか、その辺のお考えをお聞かせください。

○斉藤参考人 お答えいたします。
 今黒沼先生からリーガル的なフレームワークのお話があったと思いますが、御案内のとおり、アメリカでSOX法ができて、それに対抗するような形でロンドンで、デリバティブ等々を持たないロンドン取引所が、対抗上、AIM市場というのを作成しました。この新しいルールで世界の新興企業を一気にロンドンに集中した結果、アメリカ・ニューヨーク市場というのは、かつては世界の五三%ぐらいの企業ファイナンスをやっていたんですが、今一三%しかできないぐらいに凋落しました。世界は非常に激しい、先ほど申しましたような、いかにしてリスクマネーを自分の国へ取り込むかという、強烈な戦いをやっている。
 その中に、知恵として、ロンドンはAIM市場というのをつくり出しました。これで、ロシアの新しい企業を上場させたり中国やインドの会社を上場させることによって大変な成長を市場にもたらした。投資家ももちろん大変潤ったわけであります。この背景には、大変な税制の優遇をつけたりしまして、国家を挙げて市場をつくってまいりました。
 私どもが考えておりますのは、このスキームを使って日本に取り入れなきゃいけない問題が幾つかある。それは、新規上場をしましたときに、証券会社が引き受けの役割をやりますが、現在では、一時的に引き受けの役割をやって、その後の面倒を見ないということがあります。プロ市場の一つの特徴は、ノーマッドという制度があるんですが、引受業者に責任を持たせるということです。この引受業者が外れますと自動的に上場廃止になる、そのくらい引受業者が後まで面倒を見なければならないという制度を持っております。これは日本にぜひ取り入れたい制度であるということが一つあります。
 それと、先ほども申しましたように、日本国内の小さな技術、インキュベーターと言われる技術、そういうものには当然、リスクが高いので金融機関というのはお金を貸せません。そこであるのが、もともとリスク資本を提供する株式市場なんだと私は思います。そこへ投資することによって新しい産業を生み出すということが大事だと思います。
 東京証券取引所を見ますと、いつも世界で言われることは、日本というのはトップ五十という企業を選び出すと過去五十年間ほとんど変わらない。アメリカは恐らく十年おきに七、八割、メンバーが変わっていきます。そのくらい新しい産業が起き、古い産業が廃れていくという、はっきりした回転が行われている。それがやはり国家のエネルギーを生んでいるということで、日本が沈滞している、成長がとまっている一つの現象として、新しい産業が育たない。これは我々が育ててあげなきゃいけないと思います。
 そういう意味で、このプロ市場というのを、日本の千五百兆円と言われるお金をある意味ではうまく運用するというような意味もありまして、ぜひ育成させていただきたい、こういうふうに思います。

○とかしき委員 ありがとうございました。やはり新しい市場、企業をどうやって育てていくのか、ここが重要なポイントだと思います。
 実は、塩漬けになっているのは企業のことだけではなくて、個人資産の方も今塩漬けになっておりまして、資料をお持ちさせていただきましたけれども、まず一番のところなんですが、グラフを見ていただきますと、最初に、実はバブルの後も日本は金融資産がずっと伸び続けて今千五百五十五兆円までということで、現金、預金が五一%、株式、出資金がわずか一二%ということで、アメリカの四分の一ぐらいになっているわけであります。ところが、日本は金融資産をだれが一番多く持っているのかといいますと、各国と比較すると、日本は高齢者が一番資産をたくさん持っているということで、日本は、生活が苦しいと言いながら懸命に貯金をして、死に旅立つ直前が一番資産を持っているという状況になっております。
 そして、実際にアンケートをとりますと、不思議なことに日本人は、十分な貯蓄をしていないから老後が不安であるということを十人中九人の方がお答えになるということです。ですから、海外から見ると、巨大な金融資産を持ちながら老後が不安だ、年金も世界の水準の中では一番もらっている国民なのにもかかわらず不安だ不安だと言って、お金を全く塩漬けにしたまま使っていない、市場に流していかないという非常に特異な特性を持った状況になっているわけであります。
 そして、実際に、個人投資家、金融商品の選択基準は何なのかということで、次のページ、六番なんですけれども、日本は一番重要視しますのが安全性重視、投資するときに必ず聞かれるのが、元本保証はあるんですかというふうに言われてしまうわけです。収益性が一番低いというふうになっているわけであります。
 また三番に戻りますけれども、このような状況ですから、運用益が各国に比べて日本は極端に低いということで、運用益がないために日本は金融資産はだんだんじり貧状態に陥っている、こういう構図があるわけです。ですから、日本人がこの千五百五十五兆円の資産を不安だ不安だと言って全く市場に流してこない、そのために株式市場が硬直化している、日本のマーケットの力が落ちているのではないかというふうに考えられるわけであります。
 そこで、安東俊夫参考人と樋口三千人参考人にお伺いしたいんですけれども、なぜ日本は、根拠のないというか、これだけ不安を抱き続けるのか。千五百五十五兆円もの金融資産を運用できない、なぜできないというふうにお考えになられるのか。あと、想定される原因とその対応策をあわせてお聞かせいただければと思います。お願いいたします。

○安東参考人 私どもも常日ごろ非常に悩ましく思っていることを御指摘いただきまして、ありがとうございます。
 前提条件といたしまして、公正で透明な証券市場というもの、言ってみたら投資家が安心して取引できる場を確保するというのが不可欠ということであります。
 御指摘のとおり、我が国の個人金融資産は、高齢者のところに金融資産が偏在しているというのも事実でございます。したがいまして、確定拠出年金、言ってみたら日本版四〇一kとかあるいは少額投資の優遇策等を通じまして、現役世代といいますかの金融・証券投資を促進していくことは重要だと思います。
 その際に重要なのは、ある種の投資のインセンティブを与えることではないかというふうに思います。その一つは、金融・証券税制だというふうに思っております。これは、欧米の主要先進国とかあるいはアジアの国等と比較しましてもかなりリスク商品についての優遇措置が講じられておるところでございますし、こういう面の国際競争力の確保という観点からも、そういったための税制措置が必要であるというふうに考えます。
 それと、個人の投資に対する不安心理ということでございますけれども、金融に関する知識が必ずしも十分でないということは挙げられると思います。これは、金融広報中央委員会というところでアンケート調査をとったところ、金融商品とか金融商品にかかる税金については六割の方、投資のリスク、株式、債券等の投資に関しては七割以上の方が、ほとんど知識がないと思うという回答をされております。したがいまして、そういった知識不足あるいは理解不足のためにとどまっている、停滞しているということも言えると思います。
 協会といたしましては、そういったことを解決するために、取引所でございますとかと連携いたしまして、セミナー等々あるいは証券投資の日とかいった各種イベントを長年継続してやってきております。これを継続してやることによって、皆さんの知識向上あるいは理解を深めることに努めたいというふうに考えております。
 以上でございます。

○樋口参考人 御質問の内容、先ほど安東参考人も申し上げましたように、私どもも共通の課題として、悩みとして抱えている問題でございます。
 千五百兆の個人金融資産が動かないというのは、将来に対する不安が非常に大きいというふうに我々も思っておるわけでございます。私は個人的には、不安だから運用しないということよりも、むしろ運用をしなきゃならないという必然性、必要性を切実に感じていないという面が結構あるのではないかなというふうに感じております。
 実際に、年金の受給世代、先ほど御指摘もありましたように、高齢層のところにこういった預金が集中しておるということでございますが、この層の方々は資産運用にある程度関心を持っておられるというふうには認識しております。むしろ大きな問題は、長期投資ができる状況であり、かつ、リスクをとってでもそういうことを行う必要性があるというふうに考えられております若年層が、資産運用への関心が非常に低いという現状にあるのではないかというふうに思います。
 投資信託協会としましては、いろいろな形で国際交流の活動も行っておるわけでございますが、諸外国の事例から見まして、関心を持ってもらうためには、若年層への確定拠出年金制度の普及というものが最も有効な解決策だというふうに思っております。諸外国のケースでは、この確定拠出年金制度の普及啓発活動とあわせまして、先ほど来出ておりますように、投資家教育といったものもあわせて推進を図っておるという状況でございます。
 個人個人が年金について切実な問題としてみずから長期運用して、リスクをとってためていかなきゃいかぬのだという考え方を浸透させることが、この問題の解決策の一つではないかというふうに考えておる次第であります。投資信託を使ってそのような形を遂行していくように、我々としても努力してまいりたいというふうに考えております。
 以上でございます。

○とかしき委員 やはり知識が不足しているということと、税的な配慮とかいった必要性を感じられるような環境づくりというのが大切だということがよくわかりました。ありがとうございました。
 それでは最後に、日本が金融大国を目指すならば、特に環境と金融の融合、ここがこれから世界でも大きなテーマになってくると思います。低炭素社会への移行に際して、ヨーロッパが今ちょっと先行ぎみですけれども、日本も新たな世界のリーダーを目指すべきだと私も考えておりますけれども、今後、環境と金融のマーケットの育成、あと基準づくり、国としてどんなサポートをすべきとお考えかということを、時間がありませんので、一言ずつお伺いできればと思います。よろしくお願いいたします。

○黒沼参考人 環境については私の専門ではないのですけれども、金融の分野で開発された手法を生かして、環境問題に取り組むためのインセンティブを適切に与えるために排出量取引などが認められているわけですから、両者が相補完し合って、この場合の最終的な目的というのは金融にあるわけではなくて環境問題への取り組みにあるわけですから、その目標をしっかり見失わないようにして、制度を構築していくことができるのではないかというふうに考えています。

○斉藤参考人 先生よく御案内のとおり、世界の金融というのは、一九六九年ぐらいから、数理、定量によって数学的に把握する、リスクというもの、ボラティリティーをベースに計算するという技術が発達して、その金融のバリューというものを市場で取引することによって最も効率性の高い社会をつくろうという動きが、この二十五年、三十年続いてきたわけです。その中に環境問題というのが出てきて、排出権という権利、クレジットも数量的にとらえて、それを市場で取引することが最もベストであるという哲学を持っているということです、彼らは。それを日本が完全にネグレクトしない方がいいと私は思っております。

○安東参考人 協会としては、証券業界の環境問題に関する行動計画というものを既にこの二月に策定しております。具体的には、例えば環境配慮型企業を投資対象とする商品、エコファンド等ございますけれども、そういったものを開発、提供して、環境配慮型企業への支援並びに投資家に対する環境配慮型企業への投資機会の提供等を通じまして地球温暖化防止策の啓蒙に寄与しているところでございます。
 また、今斉藤さんがおっしゃいましたように、排出権取引等々につきましても、投資機会の多様化でありますとか投資家の拡大というようなことを期待しておりまして、政府におかれましても、こうした取り組みを支援して環境対策を促すような制度設計をぜひやっていただきたいというふうに思います。

○樋口参考人 投資信託の方の立場から申し上げますと、今現在話題にあるエコファンドと称される、そのような公募のSRIファンドは、二〇〇七年九月末時点で約五十本、七千五百億円程度ございます。これも、一年間で倍増というようなピッチではあるんですが、公募株式投信全体の中に占めるウエートはまだまだ低い状況であるということでございます。
 大きな規模での運用というものが活発になりましたのはここ一、二年のことでございまして、これは主に、環境とかそういったものに非常に関心の高い企業を選別して投資をしていく、そういった企業に投資をされることによってそういった企業の株価が上がり、さらにその結果として投資家にそのリターンが戻るというような形で環境問題に対する企業の取り組み方を支援していくということで、非常に役立つのではないかと思っておるんですが、現状におきましては、まだ運用が開始されてから一年とかそんなレベルでございまして、他のファンドとの運用格差というか、そういったものがまだ明確に提示できない状況で、一般にもなかなか明確に支持されにくい状況にあろうかと思います。
 こういったものが、確かに有効な投資であるし、いい企業に投資をしているんだというようなものがもう少し定着してまいりますれば、恐らくこういったものに対する関心は一段と高くなって、金融と環境の関係からいきましてもいい形で推移していくのではないかというふうに考えております。

○とかしき委員 ありがとうございました。